私は今、主に成年後見関係のお仕事をしています。
皆さんは、成年後見制度のこと、ご存じでしょうか?
「知らない…。」「言葉だけなら聞いたことある、かも。」という方がほとんどだと思います。
今回は、市役所の福祉部署に在籍していた4年間、さまざまな成年後見の関係業務を経験し、退職した後も、すでに約20件以上のケースに携わっている私が、これまでの知識と経験をまとめて、成年後見制度について、なるべくわかりやすくお伝えしたいと思います。
成年後見制度の知名度
初めに、成年後見人を一言で説明すれば、裁判所から任命された法的な「代理人」です。
認知症や障害等により、難しい判断や手続きができない人を支援するため、生活費等の金銭管理や契約書類等の作成・提出を行うお仕事です。
では、成年後見という制度は、世間一般にどのくらい知られているのでしょうか?
2020(令和2)年1月に、内閣府政府広報室が公表した「認知症に関する世論調査」の概要によると、「内容も言葉も知らない」26.7% つまり、約4人に1人は、言葉すら知りません。
「内容は知らないが、言葉を知っている」22.3% を含めると、約2人に1人は、成年後見の内容は知らない、ということになります。知名度、めちゃくちゃ低いですね。
「自分の家族や親族に成年後見人が付いている」「福祉関係のお仕事をしている」「金融機関のお仕事をしている」という方ならご存じかもしれませんが、およそ自分に関わりがなければ、知らないのも当然だと思います。
“任意”と“法定”の違い
先ほど紹介した「認知症に関する世論調査」には、「将来の判断能力の低下に備え、元気な時にあらかじめ後見人となるべき人を決めておく任意後見制度がある」という項目もあり、これには30.6%の方が知っている、と回答しています。
後見制度には、任意後見制度と法定後見制度の2種類があるのです。私は、福祉担当になるまで知りませんでしたので、率直に「任意について知っている人が、意外と多いんだな~。」と思いました。
違いを一言でいえば任意は、自分の判断力が【衰える前に】自分の判断力が衰えた場合の後見人を、公正証書として、【あらかじめ決めておく】という制度です。
法定は、判断力が【衰えた後に】家庭裁判所に申立をして、後見人を【これから決めていく】という制度です。
任意のメリットは、後見人をあらかじめ決めておけることです。
任意のデメリットは、法定よりもメンドクサイことですね。
メンドクサイこと1点目は、後見人を決めておきたい人と、後見人になる予定の人の間で約束したことを任意後見契約(※1)として締結し、それを公的に証明するために、公証役場(※2)で公正証書(※3)を作っておく必要があることです。
※1 任意後見契約 … 判断能力が不十分な状況に陥った場合に備えてあらかじめ代理人(任意後見人)を選任し、自分の生活維持や療養看護、財産管理のために必要な事務等を代わってしてもらうことを定めた契約のことです。
※2 公証役場 … 法務局が所管する公正証書の作成等を行う役場のことです。全国に約300か所あります。
※3 公正証書 … 私人(個人又は会社その他の法人)からの嘱託により、公証人(※4)がその権限に基づいて作成する文書のことです。
※4 公証人 … 公証人法の規定により、判事等を長く務めた法律実務の経験豊かな者の中から法務大臣が任免し、国の公務をつかさどる人のことです。
メンドクサイこと2点目は、公証役場の手数料として、1契約につき11,000円かかることです。法定の場合であっても、申立の時に、収入印紙や郵便切手が約10,000円かかるのですが、それにプラスしてかかる費用になります。
メンドクサイこと3点目は、判断力が低下し、いざ後見人が必要になった時に、まず医師の診断書をとってから、家庭裁判所に申立をしないと開始できない、ということです。
ね?なんかメンドクサイでしょ?
法定のメリットは、任意契約やら公正証書やら公証人やらが必要ないことです。
法定のデメリットは、後見人の候補者がいない場合には、家庭裁判所に一任することもできるのですが、候補者が見つかるまでにとても時間がかかる傾向があることです。
家庭裁判所に提出する「後見開始の申立書」の中に、もし後見人の候補者が決まっている場合に作成する「後見人等候補者事情説明書」という書類があります。もし、候補者がいる場合は、比較的速やかに後見人の決定が出ます。
なお、候補者事情説明書を出したとしても、最終的には家庭裁判所が決定しますので、候補者ではない方(弁護士等の専門家)が後見人に就任することもありますが、なり手が少ないという現状もありますので、候補者の人が、そのまま認められることが多いようです。
ただし、後見人になれない条件(欠格事由)というのもあります。これについては、あらためてお話します。
認知症の人数
認知症とは、いろいろな原因で脳の細胞が死んでしまったり、働きが悪くなったりしたためにさまざまな障害が起こり、一定期間継続して生活上の支障が出ている状況になることです。
私が調べてみて、結構、大きな衝撃を受けたのが、この「認知症の人数」です。
日本は超高齢社会と言われて久しいですが、実際に認知症の方の人数はどのくらいなのでしょうか?
2020(令和2)年の推計値では約600万人(!)、65歳以上高齢者の約7人に1人が「すでに認知症である」と推計されています。
さらに、2025(令和7)年の予測値では約700万人(!!)、65歳以上高齢者の約5人に1人が「認知症になる」と予測されているのです。
参考:厚生労働省 知ることからはじめよう みんなのメンタルヘルス 認知症
5年で100万人も増えるって、えっ?1年に20万人、とすると1か月に16,000人ずつ、1日に500人ずつ増えている計算になりますけど…。
ちょっと何を言っているのか…、恐ろしいものの片鱗を味わってしまいました。
ただ、成年後見をお仕事にしているものからすると、とてつもない潜在的な需要がある、ということを意味します。
そして忘れてはいけないのは、あなたも、私も、長生きすれば、認知症になる可能性がある、ということです。脳に刺激を与えるような新しい経験をするように常に心がけて、認知症を予防しながら、元気に人生を楽しみましょう。
ものごとは、一方的に見ることはせず、なるべく多角的な視点から見ることが大切です。視野が狭いと、せっかくのチャンスにも気づけませんからね。
成年後見制度の利用者数
では、気を取り直して、次の話題に。
実際に、成年後見制度を利用している人数は、どのくらいいるのでしょうか?
答え:約24.5万人です。(245,087人)
参考:最高裁判所事務総局家庭局 成年後見関係事件の概況(令和4年1月~12月)
1年に約10,000人のペースで増加していますが、認知症の人数と比べると全然、少ないですね。
成年後見人のなり手が全然、足りていない、ということです。
ただ、注意が必要なのは、認知症の人すべてに成年後見人が必要な訳ではない、ということです。同居の家族がいたり、適切な施設に入所することで、見守りがあれば日常生活ができるという方も、たくさんおられるからです。
逆に、成年後見が必要な方は、認知症の人だけに限りません。生来の知的障害をお持ちの方や、うつ病やアルコール依存症等の様々な精神的な疾患により、必要な方もいるからです。
つまり、成年後見人の必要性はめちゃくちゃ高いけど、知名度は低いままだし、成年後見人のなり手も少ないのが現状である、と言えます。
少し余談になりますが、先ほど任意はメンドクサイとお話しましたが、裁判所の資料を見ると、任意の利用者数は、約3千人(2,739人)で、1年間で100人も増えていない微増にとどまっています。法定と比べると驚くほど少ないですね。やはり任意の手続きは、とてもメンドクサイので、「やはり実際に後見が必要になってからでいいかな。」という考えになり、結果的に法定の利用者数が多くなっているのではないか、と考えます。あるいは、財産が多い方の場合、任意後見を決めておくことで相続争いを避けたいという思惑で利用されるのかな、と推測しています。
私がこれまでに扱ったことがあるのは、法定のみです。任意は、これまでに扱ったことも、これから扱う予定も現時点ではありませんが、任意後見制度が「わかりやすく・使いやすい」制度に改正されていくと良いなぁ、と考えます。
まとめ
内閣府の調査によると、約2人に1人は、成年後見のことを知らない、という現状です。
後見制度には、任意と法定の2種類があります。
任意は、自分の判断力が衰える前に、衰えた後にどんな支援をしてもらうかについての契約書を作っておき、公正証書として、あらかじめ後見人になる人を決めておく制度です。
法定は、自分の判断力が衰えた後に家庭裁判所に申立をして、後見人が必要になってから決めるという制度です。
認知症の人数は、2020(令和2)年時点では約600万人、と推計されています。
2025(令和7)年には約700万人にも上る、と予測されています。
実際に成年後見制度を利用している人数は、2022(令和4)年12月末時点で、約24.5万人です。
成年後見が必要な人は、年々増えていますが、制度の知名度も実際の利用者数もまだまだ少ないため、1人でも多くの人が「まずは知ること」が大切ではないかな、と考えています。
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