成年後見の現場④ 施設入所×空き家問題

成年後見制度

今回は、Fさんのことについてお話します。

発端は、カード不正利用被害の相談から始まり、自宅→施設→入院→施設と居所が変遷した方のケースです。

そして、全国的な課題になっている空き家問題についても、個人的に思うところを、ちょっとだけお話してみたいと思います。

Fさん

Fさんの支援は、2021(令和3)年の秋ころ、本人を担当していたケアマネージャーさんからの相談が始まりでした。

当時79才の男性、障害者手帳などはお持ちではありませんでしたが、妻はすでに死別して、子とは別居して、自宅で一人暮らしをされている、という方でした。

ケアマネさんからの最初の相談では、「どうやらクレジットカードを不正利用されている疑いのある人がいる。助言や支援をしてもらえないか。本人は恐らく認知症になっている。」との内容でした。

カードの不正利用?

「ふむ、なるほど、概要はわかった。でも、対処法がわからん。どうしよう?」

これが、私の第一感でした。今になっても、相談の入り口では、大体いつも、同じように感じています。

わからないことに出くわした時は、「自分の知っていることをひねり出す」「人に聞く」「ネットで調べる」これらを総動員して、なんとか解決策の案を出します。

まずは詳しい状況の確認です。本人とケアマネさんの協力を得て、カードの利用明細を確認したところ、ネットでの支払い決済が総額約20万円、支払い方法はリボ払いとなっていました。

リボ払いとは、かなり極端な言い方をすると、カード会社がぼろ儲けする仕組みです。利用者に「月々の返済は一定額で済みますよ~」と言葉巧みに誘導して、気づかないうちに高い利息により借金が膨らみ、最悪の場合、自己破産に陥る危険性がある、かなり怖い支払い方法のことです。現時点では違法ではありませんし、個人の意思により自由に利用できる方法ですので、咎めることはできませんが、個人的にはリボ払いの利用は絶対にオススメしません。

リボ払いの特徴と利用上の注意(一般社団法人 日本クレジット協会)

【再放送】【禁止している宗教あり】金利のパワーについて詳しく解説【お金の勉強 初級編】:(アニメ動画)第20回

本人はパソコンを触ったこともないような人で、携帯電話も通話しかしない方とのことでしたので、ネット決済を使ったり、リボ払いを利用したりするようなことは、あり得ません。

状況を確認した後は、すぐ次の行動に移ります。最優先は「カード会社へ連絡する」ことです。カード会社の連絡先を調べて先方に事情を説明し、ひとまずこれ以上の被害が拡大しないように、カードの利用をストップしてもらいました。

このカード不正利用の件、決着としては、カード会社の独自調査により「不正利用が認められた分を、後日、返戻する。」とのことで5万円くらい戻ってきました。「あれ?被害額はもっと大きいはずだけど?」との疑問はありましたが、当方は被害を立証する手段を持っていないので、これ以上の返戻を求めてもムダだろう、と判断しました。

カード会社と争うよりも本人の生活環境を整えることの方が大事、とのことで、ケアマネさんとも相談した結果、「認知症が進んでいて金銭管理が全くできていませんね。成年後見の申立をして、同時に施設入所の検討をしていきましょう。」ということになりました。

保佐申立~決定

申立の最初の準備は、本人情報シート。これは、ケアマネさんに作成してもらいました。

次に、医師の診断書。これは、普段は別居している子に、医療機関までの通院を支援してもらいました。診断は、アルツハイマー型認知症。やっぱりね、という感じではあります。類型の見立ては、保佐でした。

認知症を理解する(厚生労働省)

申立に必要なその他の書類も準備しつつ、キーポイントとなる「保佐人の候補者を誰にするか」という問題。これは家庭裁判所に一任することもできるのですが、適任者が見つかるまで相当の時間がかかります。子は「自分はできない。」とのことで候補者を辞退されました。

子が候補者を辞退された理由は、生活拠点が離れていて、ご自身の生活にも余裕があるわけではないから、ということでした。それぞれの生活が大事ですので、これは致し方ないことだなと思います。

そこで、本人と子やケアマネさんなどにも「保佐人の役割と責任」などについて丁寧に説明し、全員の了承を得たうえで、私が保佐人の候補者となりました。

家裁に申立をしたのが、2022(令和4)年3月です。そこから、調査・面談を経て、保佐人の審判が出たのは6月、やはり候補者がいたとしても、2~3か月程度はかかります。

家裁に一任した場合は、もっと時間がかかってしまうのです。時間がかかる理由は、家裁がケースに応じて、弁護士会、司法書士会、あるいは社会福祉士会などの組織に候補者の推薦を依頼し、依頼を受けた組織は、各組織に所属する会員に照会を出し、後見を引き受けてもよいという会員さんがいれば、次のステップに進めますが、立候補者が出ない場合は、また別の方法で候補者を探す、というやり取りが発生するためです。

特に問題が複雑・困難なケースの場合は、立候補者がなかなか見つからない、ということも十分ありえます。急いで支援が必要な人ほど支援者が見つからずに時間がかかってしまう傾向があるのでは、と推測しています。

施設入所~入院

さて、Fさんのことに話は戻ります。ひとまず保佐の決定は無事に出たので、次に生活環境の整備です。

「自宅での生活はこれ以上継続できない」という親族や支援者の判断により、ひとまず近隣のケアハウスに入ることになり、さまざまな手続きを支援しました。

ケアハウス(軽費老人ホーム)は、自宅でひとり暮らしを続けることが不安な低所得の方向けの施設であり、基本的な日常生活動作ができる人を対象にしているため、介護度が高い(要介護3~5)人だと入れないことがあります。

ケアハウスに入って見守りのある生活環境になって、「少し落ち着くかな」と思った矢先、本人が高熱を出して、緊急入院となってしまいました。時節柄「もしかしてコロナに感染?」との心配もよぎりましたが、診断は、高カルシウム血症、とのこと。

幸い、重症にはなりませんでしたので一安心でしたが、日常生活動作の衰えも進行していたため「ケアハウスでの生活継続も困難だろう」という判断に至り、今度は複数の老健に同時に申込を行いました。施設によって順番待ちの数が違いますし、受入れ環境が異なるため、どこかに空きがあればすぐに入れるように、ケアマネさんから紹介された施設に、とにかく手当たり次第に申込をしました。

老健(介護老人保健施設)は、表向きの目的としては、要介護高齢者にリハビリ等を提供し在宅復帰を目指す施設です。ケアハウスよりも介護度が高い方(要介護1~5)でも受け入れてくれます。入居期間は、原則3か月となっています。ただ、現実的には自宅に戻れるほどの状態になれずに、施設での入所が続いているという方が大半なのではないでしょうか。

入院先だった病院の紹介状の効果もあってか、1か所すぐに受入れ可能との連絡がありましたので、すぐさま入所の手続きをして、老健に入所となりました。県民共済にも入っていましたので、退院後に共済金の受取りも忘れずに手続きしました。ケアハウスの退去手続きもやりましたね。いや、ホント、多くの人とのやり取りがあった期間でしたので、いろいろと勉強になりました。

【かんたん比較】ケアハウスと養護老人ホームの違い・費用や入居条件を解説(みんなの介護)

空き家問題

「施設入所後の自宅は、どうなったの?」 → そうです、お察しのとおり、今現在は空き家です。

もともと一人暮らしで、子も独立していますので、誰も住むことのなくなった家は、ライフライン(水道光熱関係)やケーブルテレビなどはすぐに解約しました。居住実態のない家に火災保険は適用されませんので、これも解約。今は、ご近所さんからの依頼があれば、夏には草刈りをシルバー人材センターに依頼するなどして、過剰な負担にならない、できる範囲での財産保全をしています。

周りにも数件の空き家がある地域ですので、売りに出しても買い手がつくような見込みもなく、打つ手がない、というのが現実です。まだ先の話になりますが、本人が亡くなった場合、子が相続するのかどうかも未定です。相続してもプラスにはならず、マイナスにしかならないので。

全国の空き家は、2018(平成30)年で347万戸、今後も急速に増加していくと予想されています。

年々増え続ける空き家!(政府広報オンライン)

やれ税制の改正だとか、やれ相続の義務化だとか、やれ手続きの簡略化だとか、やれ空き家バンクだとか、やれリフォームして活用だとか、ちまちまちまちまと、大きな効果の見込めない、面倒で場当たり的な政策を積み重ねていった結果が、現在の有り様です。

「さっさとぶっ壊して更地にして使いたい人が活用するための方法を考えた方がいいじゃん」と単純に考えてしまうのですが、個人の財産権に関わる話になるので、大胆な政策が実行できないのです。家を壊すのにも、出てきたごみを処分するにも、大きなお金がかかりますしね。法治国家で空き家の放置が進行中…。

空き家問題の解決方法は、自分の影響の範囲の輪の外の話になるので、これ以上考えることは止めます。しかし、成年後見に関わっている以上、まったく無関係の問題とも言い切れませんので、多少の関心をもって情報のアップデートはしていこうと思います。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました~。

コメント

  1. すー より:

    今回も深い話ですね。
    ありがとうございます!

    認知症に限らず、普段の生活ができなくなることは悲しいですが、現実を受け入れて前に進むことも大切…もどかしいですね↓

    一つ差し支えない範囲で教えてください。
    お子様が後見人を辞退されたのは、遠方に住んでいたり、自身の生活で精一杯だったからなのでしょうか?色々な状況があると思うので人それぞれですが、後見人制度が普及しない一因でもあるのかなと思いました。

    • gyouseishosi-mu gyouseishosi-mu より:

      すーさん、いつもコメントありがとうございます~。

      ホント「普段の生活がずっと続けばいいなー。」なんて気楽に考えたりもしますが、永遠に今と同じ、という人は誰一人いませんからね。

      人は誰しも、もちろん私も、毎年一つずつ年を重ねていくわけで「去年よりも、もみあげのあたりの白髪が増えたかなー。」なんて感じつつ、ライフステージは常に変化します。

      急激に変化してしまうと戸惑いも大きいですが、人間には学習能力があって、良くも悪くも次第に新しい環境に慣れて行きます。私は「どうせ変化するのなら、もどかしさも感じつつ、変化を楽しめる人でありたいな。」と考えています。

      さて、ご質問の「子が後見人を辞退した理由は?」については、すーさんが推測された理由の両方とも正解です。子の生活拠点が市外の遠方であって、親の面倒を見れるほど自分の生活に余裕のない方でした。後見ができない、というのも致し方ないかなと思ってしまいます。

      後見制度は、そもそも知名度がまだまだ低いし、後見人のなり手も少ないし、後見の支援を受ける人やその家族に資力がない場合には行政の補助金がある、なんてことも全く知られていません。

      後見の実態を正しく知ってもらい、少しでも普及していくように、地道に細々と今日も活動しております。いろんな人に助けてもらいながら。

      知ること、行動すること、改善すること、変化すること、楽しむこと、協力すること、全部大切ですね😊

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