成年後見の現場⑤ つながり×備え

成年後見制度

世の中は春、新年度で心機一転、という方も多いのではないでしょうか。

あんまりムリせず、がんばる時はがんばる、休む時は休む、メリハリつけて、自分なりにボチボチやっていきまっしょー。

さて、今回はKさん一家についてお話します。

初めて相談を受けたのは、昨年2023(令和5)年の11月下旬。

支援に関わり始めてから、まだ半年も経っていないご家庭のケースで、現在進行中です。

3人も!?

最初は、ケアマネさんからの相談でした。

「成年後見が必要そうな、大変なご家庭がある。まずはそのご親族の話を聞いてもらえないか?」という内容でした。

まぁ、相談の入り口としてはよくあるパターンです。

「大変ってどのくらいだろ?」と思いつつも「ま、なんとかなるっしょ」という気持ちでした。

実際にお話を聞いてみたら、これがまぁ大変。

それまで金銭管理などをしていた一家の大黒柱である夫・70代がガン末期で入院。

妻・70代は認知症、子が2人いて、姉と弟、ともに40代で統合失調症、ひきこもり。

「大黒柱にもしものことがあれば、どうしたらよいのかわからない」という、ご親族(夫の兄弟)からのご相談でした。

ご親族の方にも、当然ご家庭があり「自分ももう高齢なので、Kさん一家を支援することはできない」ということでした。この問題が出てくるまではKさん一家とも疎遠だったとのことですので、まぁ、急にそんなことになったら困りますよね。

でも…、 話を整理すると…、 妻と姉と弟に後見申立が必要ってこと?

1人でもなかなか労力かかるのに、一気に3人も!?

つながり

正直、この相談を受けた直後は「依頼を受けるか、どうしようか?」と迷いました。

「自分にできる範囲でしかやらない」つもりでお仕事をしていますが、「私のキャパを超えているかもしれない」と感じたからです。

でも「他のところに相談した時に、後見開始申立に1人10万円かかると言われて…」とのことで、ご親族が困り果てて、私のところに相談がつながった、との経緯でした。

過去にお仕事を一緒にしたケアマネさんが、せっかく私を頼ってくれたのに…。

ここで断ったらご親族の相談先がなくなってしまうかもしれないし…。

「お金で困っている人を支援する」のは、私自身の独立の原点でもあるし…。

かと言って、引き受けた結果、しばらくしてから「やっぱりできませんでした」の方が、迷惑がかかってしまうだろうし…。

少し悩んで考えましたが「やりましょう。ただし、やり方を工夫しましょう」ということで受諾することにしました。

まず、1人ずつに介護サービスまたは障害福祉サービスの支援担当者を付けましょう、と。

その上で、優先度の高い人から、後見申立を順番に1人ずつ進めて行きましょう、と。

「餅は餅屋」 「問題は細分化せよ」 の考え方で行動することにしました。

支援者のつながり、ネットワークを活かそう。 何も1人で全部を抱え込む必要はないのです。

支援者1人では、100の仕事量はできません。自分が苦手な分野の仕事もあるでしょうし。

でも4人で支援にあたれば、1人あたりの仕事量を25に分散できます。

自分の専門分野を受け持つことで、仕事を効率的に早く進めることができます。

急転

ひとまず、3人それぞれに(私以外の)支援担当者がつくことになり、それぞれの専門分野で使えるサービスを適用していくことにしました。

順次、デイサービスを利用したり、ヘルパーさんに来てもらったり、グループホーム体験をしたり、できることをできる時に、進めていってもらいました。

そうこうしているうちに、12月中旬になんと、大黒柱の夫がお亡くなりになった、との一報が。 え?

末期とは聞いていましたが、まだ最初の相談を受けてから1か月も経っていないうちに?

今度は、相続という問題も出てきてしまい、いよいよ後見が必要ということに。

葬儀は、ご親族の方から執り行っていただきました。

そこから急ピッチで、後見開始申立の準備を進めました。 後見は私の領域です。 任せろ。

ご本人との面談、制度の説明、手続きを進めることへの同意、本人情報シート、医師の診断書、住民票、戸籍、不登記証明、財産目録、収支予定表、申立事情説明書、もろもろを同時進行で、準備が整った人の分から、家庭裁判所へ開始申立をしていきました。

ゲームで例えるならば、テトリスに似ている感触で、最速で落ちてくるミノを「どこに置くのが最善か」を瞬時に判断して操作して消していく、というイメージ。

今まで培ってきた私の知識と経験と技術の全てを使って、なるべく効率的に仕事を進めました。

1~2月の2か月間は、他の方の支援をしつつも、Kさん一家の手続きが仕事の中心でしたね。

でも公務員時代の月100時間近い残業が数か月も続いた時に比べたら、楽勝です。今にして思えば、経験しておいてよかった、…のかな?

メンタル的にツラかったあの時期も、もはや懐かしい…。決して、もう一回やりたいとは思いませんけどねw

家庭裁判所に書類を出した後は、しばらく待ちです。調査官が書類の内容を精査するのに時間がかかるためです。ここはもう、私は関与できません。

そして、3月にご本人と調査官との面談が順次行われ、4月中に家裁の審判が出て後見が決定する見込み、というところまで、なんとかこぎつけました。

まぁ、正式に決定してからが後見人の本番な訳ですが、2024(令和6)年4月の現状としては、ようやく一区切りがついたところです。

備え

私は今、15人の後見(保佐、補助含む)をしていますが、個人的に思う「財産の備えのライン」が2つあります。

100万円 … 何とかなるかな?というライン

300万円 … 少し余裕があるかな?というライン

支援を受ける方の財産調査をした時、100万円未満だと「もし入院とかがあったら、一時的に多額の出費があった時にちょっとヤバいかも」と考え、年金の収入(老齢、障害、あるいは生活保護)に対して、毎月出ていく支出で節約できるもの(例えば、過剰な携帯代金や民間保険の保険料など)はないかを把握して、最優先で手続きをします。

いわゆる「家計管理」ですね。とにかく大体どんな場合でも、収支を黒字化させることを念頭に置きながら支援をしています。

万が一、財産がなく、預貯金がほぼゼロの時は「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利(生存権)を保障する制度」=生活保護を申請して保護費を受給する、という選択肢を取ります。

そして、300万円を超えた時「仮に一時的に多額の出費が3回続いたとしても何とかなる。大丈夫っしょ」とようやく思える状況になります。

実際、私の住んでいる市町村における「法定後見制度利用支援事業」=お金がない人が後見制度を使った場合に助成しますよ、というありがたい制度なのですが、「ひとり世帯の場合、財産・預貯金の額が350万円未満の時」というのが条件になっています。

つまり「350万円以上の財産がある人は、自分で何とかしてね」と言われているような感じです。

その基準額からしても「300万円もあれば、裕福とは言えないかもしれないけど、貧困という状態は脱していると言えるのかな」と思います。

今回の3人は、全員がその間の、100万円以上300万円未満。

何かあっても多分何とかなるけど、余裕は感じられないから、いつもどおりに、まずは家計管理していきましょうかね。

最近、読んだ本

最近「死なないノウハウ」という本を読みました。

本屋でタイトルだけを見た時「長生きや、健康に関する本かな~」と思いましたが、サブタイトルを見ると「独り身の金欠から散骨まで」と書いてあります。

「おや、なんか違うみたいだぞ」と興味をひかれ、購入しました。

著者: 雨宮 処凛(あまみや かりん)

発行: 光文社

定価: 900円+税

初版: 2024(令和6)年2月29日

ページ数:261P

高齢者の方、障害者の方、そのご家族、あるいは支援者の方であれば、一読の価値はある、と思います。

「お金」「仕事」「介護」「健康」「トラブル」「死」 全6章の構成です。

今の日本で起こっていること、使える制度などについて紹介されています。

すでに知っている制度も多く書かれていましたが「そんな大変なケースや、便利な制度もあるのか」と世界が広がる感じがしましたし、とても読みやすい文章でしたので、2~3日でサラっと読めました。

「この先への漠然とした不安」を抱えている人の悩みを、少し軽減できる内容で、とても参考になりました。

コメント

  1. すー より:

    むーさん、お久しぶりです!
    かなりヘビーな案件ですね。。
    私も公務員アゲインでバタバタです。
    一つ質問させてください。

    4月中に審判が出るとのことでしたが、その間は後見人として支援することはできないと認識しています。その間はただ待つと言う形なのでしょうか?

    被後見人からすれば、むーさんのような支援者はとても大きな存在だと思います。審判が出るまでは準備等をして待つしかほかないという感じでしょうか?

    差し支えない範囲で教えていただけると幸いです。よろしくお願いいたします🙇‍♂️

    • gyouseishosi-mu gyouseishosi-mu より:

      すーさん、おひさしです😄
      新しい環境に慣れるのは、少し時間かかると思いますが、今までの経験を活かして、新しい経験をしていきましょー。 (あれ?リベのアイコン、変えました?)

      さて、ご質問への回答としては、①対象者の緊急度、②親族等の支援の有無、③支援者の考え方による、となります。

      おっしゃるとおり、後見人=法的な代理人として動けるようになるまでは、金銭管理や書類手続きはできません。ですが、私の場合は、今まで関わってきたケースでも「ただ待つ」ということは、ほぼありませんでしたね。

      今回の場合は、幸いご本人の命に関わるような緊急性はありませんでしたし、ご親族さんが近くにお住まいでしたので、できる範囲のことを私がサポートしながら手続きをしてもらう、という形をとりました。支援・対応の仕方は、全く同じやり方でOKということはなく、ケースバイケースで適応しています。

      たしかに「正式に後見が決まるまで全く関与しない」という考え方の支援者もおられるでしょう。法律や制度の上では、その考え方でも間違っていませんし、それを非難しようという気持ちもありません。

      でも、私は公務員時代に「間違ってはないけど、それは本人や親族が望んでいる支援なのか?」という点に疑問を感じていたので、今は独立したうえで、私の考え方で支援をさせてもらっているわけです。考え方や行動は、もう本当に人それぞれです。

      そうは言っても限界はあるので「自分のできる範囲で」ということにはなりますけどねw

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