これまで、「成年後見制度とは?①~②」で制度の概要について、お話してきました。
今回は、家庭裁判所に申立をする具体的な手順を、なるべくわかりやすくお話したいと思います。
全体像や流れがわかると、とっつきにくいと思っていたものが、突然、理解できるようになることがあります。
この記事が皆さんの理解の助けになれば幸いです。
ご本人への説明、親族の同意等
一番初めにやるべきことは、ご本人や親族の方への制度の説明です。
「成年後見とは、どんな制度か?」「後見人等ができること・できないことは?」等について、内容を理解してもらったうえで、同意を得ることが大切です。
ここでいう親族の範囲は、「仮に本人が亡くなった場合に、相続人となる方々(推定相続人)のこと」です。ざっくり言うと、配偶者、親子、兄弟姉妹の範囲ですね。
私は、時間がかかっても、この説明と同意を最も大切にしています。この土台がしっかりしていないと、後見人等が決まってから「こんなハズではなかった…。」となってしまい、誰も幸せになれませんから。【前提条件を揃える】【同じ方向を見据える】【一緒に歩む】という視点が大事だと、考えています。
たまにテレビや雑誌やネット上で、「成年後見制度の問題点」等の話題を見ることがありますが、8~9割方は、本人や親族の理解や同意がないまま手続きを進めてしてしまったことが原因でしょう。前提条件を揃えずに、違う方向を見て、バラバラに歩けば、そりゃそうなってしまいますよね、と思います。
どうしても、成年後見制度の手続きには、時間とお金と労力がかかります。ですので、支援する方も、される方も、お互いによく理解して納得しながら進めていかないと、お互いにとってよくない事態になってしまうのです。
親族が同意したことを証するために「親族の意見書」への記入・署名が必要なのですが、ご親族が近くにお住まいであれば比較的スムースに行くかも知れません。しかし、遠方にお住まいだったり、親族の方ご自身も判断能力が衰えているケースもあったりするので、とても時間がかかる場合もあります。
ちなみに本人の同意については、本人が申立人となることで同意書は不要です。申立をする人が、同意をしていないって、そもそも論でおかしな話になっちゃいますからね。
本人情報シート
「本人は、どんな人なのか?」「どんな問題を抱えているか?」「なぜ、後見が必要なのか?」を、なるべく詳しく書いた書類です。
これは、成年後見用の診断書を書く医療機関や、後見人等を決める家庭裁判所にとって、とても重要な情報となります。
誰が作成するかというと、本人の状態をよく知る福祉関係者等が作ります。例えば、介護のケアマネージャーさんであったり、障害相談支援センターの職員さんであったり、施設に入所あるいは病院に入院している時は、ケースワーカーさんや看護師さん等に作成してもらう場合もあります。
実は制度上、提出が必須ではないのですが、間違いなく作成してあった方がよい、とても大切な情報シートです。
医師の診断書
これは、前回の記事の「成年後見の3類型」の説明の時に出てきたものと同じです。
脳神経科や精神科等の「本人の判断能力を医学的に診断できる」医師から作成してもらいます。この診断書により、「後見」「保佐」「補助」の見立てが決まります。医療機関によって料金が異なりますが、一般的な相場としては、約5,000円かかります。
診断書の有効期間は、発行から3か月以内のものです。例えば、2月1日付けで診断書を作成してもらった場合は、2~4月のうちに他の書類も全て揃えて、家庭裁判所に申立をしなければなりません。
3か月以内、要チェックや。
住民票・戸籍
本人の「親族関係図」を作るために、住民票や戸籍が必要です。
ご本人の住所がある自治体(市役所または町村役場)の窓口で取得します。
それぞれの自治体によって異なりますが、住民票は約300円、戸籍は約450円の手数料がかかります。この金額はあくまで目安ですので、ご留意ください。
住民票は、もしも本人がマイナンバーカードをお持ちであれば、コンビニで簡単に取得することができます。カードを取得した時の暗証番号等が必要になりますので、ご注意ください。
戸籍は、本籍地が現住所と異なると、本籍のある自治体に電話で問い合わせをしたり、ホームページで手続き方法を確認する必要があります。大抵の場合は、郵送請求という形でのやり取りになります。所定の様式に必要事項を記入して、手数料を収入証紙等で同封し、先方の自治体から送り返してもらうための切手を貼った返信用封筒等も必要です。このやり取りに約2~3週間かかる場合があります。
診断書と同様に、住民票や戸籍の有効期間も、発行から3か月以内のものです。要チェッ…
財産目録・収支予定表
家庭裁判所が、ご本人の預貯金や土地・建物、保険証券・有価証券等の財産状況を把握するための資料が「財産目録」です。
もう一つの「収支予定表」は、1年でどのくらいの収入(給料や年金等)があり、どのくらいの支出(家賃や施設料、水道光熱通信費、食費等)があるのか、を把握するためのものです。これには、裏付けとなる通帳や領収書等のコピーが必要になり、過去1年間の状況整理が必要です。
不登記証明
ご本人に、まだ後見人等がついていないことの証明が必要です。
東京法務局にて、「成年後見制度の利用者を登記している後見登記等ファイル」が保管されており、これを参照することで、成年後見の登記がされていないことを証明するのです。
取得方法は、東京法務局に郵送で請求します。
収入印紙300円+郵便切手84円×2(返信封筒用含む)がかかります。
不登記証明の有効期間も、発行から3か月以内のものです。要…
家庭裁判所への申立~面談~審判
申立に必要な書類がそろったら、家庭裁判所に前納するための収入印紙や郵便切手を用意して、申立時に一緒に提出します。
類型の違い等により、若干金額は前後しますが、収入印紙で約5,000円、郵便切手で約5,000円、合計約10,000円かかると思ってください。収入印紙は全額使用されますが、未使用分の郵便切手がある場合は、後日、裁判所から返却されます。
申立をしてから約1~2か月後に、家庭裁判所から連絡があります。
日程調整をしたうえで、家庭裁判所の調査官と面談を行います。場所は、原則として家庭裁判所ですが、施設に入所していたり、自力での交通手段がなく、裁判所に自力で来れない事情がある場合は、ご本人の居所で面談を行うこともできます。
面談をした後、約1か月で「後見人等が決まりました」という審判が出ます。
「これで完了」かと思いきや、この後、もうちょっとあります。
登記
審判が出た後、約1か月後に「登記番号通知書」というものが届きます。
この番号により、東京法務局に郵送請求すれば、「登記事項証明書」を取得できるのです。
取得方法は、東京法務局に郵送で請求します。
収入印紙550円+郵便切手84円×2(返信封筒用含む)がかかります。
これを取得することでやっと正式に、後見人等(法的な代理人)として、金融機関や年金事務所、市役所等での手続きができるようになります。
準備開始から登記完了までの期間
準備を始めてから登記が完了するまでは、約半年かかるケースが多いと思います。とんと~んと順調に行ったとしても3~4か月、長い場合は1年くらいかかることもあります。
長くなってしまう原因は、説明と同意に時間がかかったり、定期受診に合わせて診断書を書いてもらう等の理由で間が空いてしまったり、取り寄せたり準備する書類が多かったり、どうしても裁判所の審査で時間がかかってしまったり、と理由はさまざまです。
「今すぐ成年後見制度を利用したい。」と思っても、すぐには使えないのが実情ですので、あらかじめ制度について理解をしておき、必要になったら速やかに取りかかることが大切ですね。
ちなみに、私が今まで関係したケースで、調査官との面談までたどり着いたのに、面談の時にご本人が「やっぱ後見はいらねぇ。」と言い出してしまったことがありました。かなり焦りましたが、調査官さんがとても優しい方でしたので事情を察していただき、1か月くらい時間をかけて本人の再説得を試みました。ですが、そのような配慮と努力も空しく、結局は取り下げとなってしまいました。いい経験でした…。
だから、一番初めの納得と同意が大事なのです。
まとめ
家庭裁判所に「後見人等をつけてください」と申立をします。
申立には、本人情報シート、医師の診断書、住民票・戸籍、親族関係図、財産目録、収支予定表、裏付け資料のコピー、不登記証明、等のたくさんの資料を作ったり、整理したりする必要があります。
申立をした後、家庭裁判所の調査官との「面談」があります。
面談をした後、後見人等が決まると家庭裁判所から「審判」が届きます。
審判が出た後、「登記番号通知書」が届きます。
その番号をもって、東京法務局に郵送請求すると「登記事項証明書」を取得できます。
これで正式に法的な代理人として、金融機関等での手続きができるようになります。
すぐに成年後見を利用したいと思っても、手続きに時間がかかるため、あらかじめ制度について理解しておくことが大切です。
なお、今回説明した書式は、下記リンクから参照できます。
さて、答え合わせです。スラムダンクの「要チェックや」のキャラは、相田彦一でした。映画「THE FIRST SLUM DUNK」面白かったです。リョーチン(宮城リョータ)かっこよかったー。(ちなみに彦一は映画に出てきません。)
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