成年後見の現場③ 方向性を重視×チームで支援!

成年後見制度

今回は、Oさんのことについてお話します。離婚、OD、そして離職と、いやいやなかなか、支援のやりがいがある方ですw

Oさん

初めての出会い(支援の始まり)は、2021(令和3)年の春ころです。まさに、私が独立・開業した直後ですので、「よっしゃ、やったるで~。」と意欲に燃えつつも、「本当にやっていけるのか?」と、不安も大きかった時期です。

当時26才の男性、療育手帳Bと精神手帳2級をお持ちでしたが、障害者枠(※1)で東証一部上場の工作機械メーカーにお勤めでした。

Oさん本人と妻、お子さんが一人いる、というご家庭でした。しかし、Oさんの妻から「本人の金銭管理や世話が大変。」とのことで、まずは障害者相談支援センター(※2)に相談があり、その後、「成年後見制度の利用がよいのではないか。」とのことで、私の方に相談がつながった、という感じでしたね。独立したての何の実績もない奴に、相談をつないでいただいて本当に感謝です。

※1 障害者枠とは … 日本では、障害があっても働く機会を平等に得られるように、国や自治体、企業に対して「一定の人数、障害者を雇わなければならない」というルールが定められています。 このルールに則り設けられている採用枠のことを、障害者求人枠と言います。  「障害者雇用枠」や「障害者枠」と言われることもあります。(以下、※印の注のあるものは全てGoogle検索をして得た情報を参考にしました。)

※2 障害者相談支援センターとは … 障害を持つ方が置かれている状況や抱えている悩みの相談に応じ、暮らしについて一緒に考える相談支援を行い、主に相談内容に対する情報提供や助言、必要な障害福祉サービスの利用につなげる支援や関連機関との連絡調整等を行う組織です。

初面会 ~ 支援開始

ご本人と面会する前に、支援者サイドから「ADHDのため多動性・衝動性あり。」「高圧的な人が苦手なので、合わない人は拒否する方。」との事前情報を得ていました。やはり実際に会う前は「どんな人なんだろ?どんな特性(障害)があるんだろ?いきなり初対面で拒否されたらどうしよ?」というところは、気になったところです。

当然ながら、Oさんサイドも同じように「むーってどんな奴?」と不安に思っていたのでしょうけどねw

実際に会ってみたら、見た感じは普通の、とても人当たりの良い好青年、身長は185くらいはあるのかな、タッパのせいか少し痩せ型に見えました。少し雑談をすると「今は70キロくらい。以前は体重が80キロ以上あったけど、筋トレして痩せた。」とのこと。特性のある方は「自分でやろう。」と決めたことはやり過ぎてしまうくらいの集中力を発揮してしまうので、これはすごい能力ですよね。

初めてお会いしてからは、月に1~2回の頻度で、2~3か月かけて、まずはOさんとその妻のお話を聞くことに注力しました。同時に、成年後見制度のことや私のことを知ってもらえるように相談を重ねました。そして夏ころに「やはり、後見の手続きを進めていきましょう。」という結論に至りました。

私は、支援の入り口として、まず初めに【方向性】をそろえることを重要視しています。方向性がそろっていないと、後々、ズレが大きくなってしまい、誰も幸せになれませんからね。方向性が合わなければ、「成年後見制度を利用しない。」という結論になることもあり得るでしょう。

世間で言われている成年後見制度のデメリットの多くは、「方向性が合っていないからこそ起こる問題なのではないか?」と私は考えていますので、継続性のある信頼関係を構築するために、入口の段階で【方向性】をそろえることは必須だと思います。

第150回 【知らないと沼にハマる】頑張りが「報われる人」と「報われない人」の違い5選【人生論】 16:14 ※ 5:37「方向性こそが正義と考える」

それから8~9月にかけて資料の準備を行う中で、医師の診断を受けたところ、類型は補助。10月に家裁に補助申立を行い、調査官との面談を経て、11月に補助開始の審判が出て、私が補助人となることが無事決定しました。

離婚 ~ OD ~ 離職

補助人となることが決まって一安心、とはならず、いろいろなコトが起こり始めます。

補助決定直後の12月、Oさんの妻から「仕事が決まったので、一人で関東に行く。」という連絡があったのです。ちょいちょい、お子さんは誰が育てるの?Oさんが一人で養育するのは、無理あるでしょ?と、周りは大慌て。

結果的に、奥さんの妹さんご家族が監護養育することに落ち着きましたが、Oさんの妻も精神に特性のある方だったんですね。「思い立ったら突っ走ってしまう行動力はすごいな。」とは思いますが、周りの支援者は、以前からかなり振り回されていたようです。

そんな騒ぎの後、しばらくしてから、Oさんも奥さんもお互いに、「今後も元に戻る意思はなく、別居状態が続いているため、離婚の手続きを進める。」という話になりました。

成年後見人は「本人の身分行為(※3)には関与できない。」ことになっています。結婚・離婚は、あくまでも本人同士の意思で決めることなのです。

※3 身分行為とは … 法律上の身分関係に関する法律効果を発生させ、あるいは変更、消滅させる法律行為のことを言います。 例えば、婚姻の成立や離婚、養子縁組といったものが身分行為の一種にあたります。

家庭裁判所にも報告・相談をしながら、あくまでも補助人である立場をわきまえながら、当事者同士の話し合いのお手伝いをする、といった形で慎重に対応しました。子の親権や養育費、面会をどうするか等を話し合い、離婚協議書をまとめ、2022(令和4)年の春に離婚が成立しました。

その直後にまた一騒動がありまして、今度はOさんが体調を崩してしまい、OD(※4)をしてしまったんですね。今までにない変化が次々と起こってしまったので、それが要因かと思われます。すぐにかかりつけのクリニックを受診、医師による診察を受け、方針としてOさんのご家族の下で、しばらく安静にすることが最優先となりました。

※4 ODとは … オーバードーズ、薬物過剰摂取。もともとは覚醒剤や睡眠薬等について使われることが多かった言葉ですが、最近では、薬局で手軽に手に入るかぜ薬等を大量に飲む「市販薬OD」が問題視されています。

本人および支援者間での話し合いの結果、前から休みがちだったお仕事にも復帰できる見込みが立たない、ということで職場を退職をする方向にもなってしまいました。

そして、補助人として、先方の会社との退職手続き、市役所での国民健康保険の手続き、ハローワークでの失業保険受給のための手続き、じつに様々な支援をしました。

「お薬の管理のために、訪問看護さんの支援も必要ですね。」と、かかりつけのクリニックからの助言もあり、契約に必要な手続きもしました。

やはり「知識として知っている。」だけではダメで、「実際にやってみて経験する。」ことが、一番、身に付くな、と実感しましたね。次に同じようなことが起こった時には、「ハイハイ、流れは知ってますよ~。」と、余裕をもって対応することができます。

Oさんを支援することによって、メタルキングを倒した時ぐらいの、本当に大きな経験値を得ることができました。感謝です。

(出典:ドラゴンクエスト) 逃げ出す前に、会心の一撃!

結び

見た目だけではわからない障害者の特性は、数多くあります。わかりやすい表現で言えば、名探偵コナンの真逆で「見た目は大人!頭脳は子ども!」という感覚が近いのかもしれません。

障害者サイドの「自分はできます。」という言葉を100%鵜呑みにするわけにいかないんですよね。支援者サイドから見たら、できていないことがたくさんありますから。かと言って、それを真っ向から「できていませんよ。」と指摘しても、相手を傷つけるだけで、何の解決にもなりませんし。相手の尊厳を保ちながら、どうしても出てしまう未成熟な行動に対しては、周りのサポートを受けながら、改善できるところは少しずつ改善し、繰り返してしまうことには、上手に付き合っていくしかありません。

「成年後見なんて大変なこと、よくできるね。」という意見をいただくこともありますが、自分は自分の得意なことしかやっていないつもりです。肝は「自分一人で何でもやろうとしないこと」です。

体調やお薬のことは、お医者さんや訪問看護さんの役割。福祉サービスのことは、障害者相談支援センターの役割。就職のことは、なかぽつ(※5)やハローワークの役割。金銭管理や契約ごとの支援こそが、成年後見人の役割なのです。

個々の問題は、それぞれの専門家を頼る。そのために、必要な情報を支援者全員が共有しておく。その情報共有のサポートもやっています。格好よく言えば、サッカーの司令塔役ですね。ボール(課題)が飛んで来たら、即時的確なパスが出せる、そんなファンタジスタ(※6)になりたいな~。

※5 「なかぽつ」とは … 障害のある人が仕事に関することと生活に関することの両方を相談できる施設の略称です。 正式名称は「障害者就業・生活支援センター」ですが、 就業と生活の間に「・」があることから省略して「なかぽつ」と呼ばれています。

※6 ファンタジスタとは … 優れたテクニックを持ち、創造性に富んだプレーを見せる天才的なサッカー選手のこと。例、ロナウジーニョ、ネイマール、ジダン等。

これからも「やっと安定したな~。」と思った矢先に、ふとしたことで状況は一変するかもしれません。でも、それは誰の人生であっても同じです。

私は「いろいろな支援者がたくさんいてくれる。」と思い、感謝しながら仕事をしているので、そんなに気負い過ぎずに楽しんで支援をしています。もっと大変なことが、これから当然あるでしょうけど、わくわくしますねw

(出典:ドラゴンボール)

今回も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました~。

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